サッカーの新戦術:ストーミングとは?

2018年頃から日本で少しずつ使われるようになってきたストーミングという概念をご存知ですか?

主にポゼッションに対抗するために使われるこの戦術について、サッカーがそれほど詳しくない方でもわかりやすいようにご紹介します。

また、育成年代などの若い選手を指導するコーチや監督にとっても知識を増やす参考になれば幸いです。

戦術の話をすると「厳密には違う!」と熱くなる人がいますが、あくまで一般の方に向けた紹介というのを予めご了承ください。

ストーミングという言葉の意味

ストーミング(嵐)のイメージ画像

まず言葉の意味をご紹介します。

ストーミングは英語で『storming』と書き、『嵐のような』という意味です。またそこから転じて『襲撃』『猛烈な、凄い勢いの』という意味もあります。

また関連として、日本語でブレストと略されるブレインストーミング(集団思考)のスペルもこのstormingが使われ『brainstorming』と書きます。

ブレインストーミングのイメージ画像

つまり、ストーミングは複数のものがごちゃごちゃするようなイメージですね。

サッカーでのストーミングとは

さてそのストーミングですが、サッカーでは前線から激しくプレスをかける戦術のことを言います。

相手チームの組織や秩序を壊すために、相手の判断力やプレー時間を奪うほど素早くプレスをかけるのでカオスな(混戦した)状態になりやすいという特徴があります。

そのためストーミングと言われるようになりました。

ストーミングという言葉自体は海外のメディアでサイモン・クーパー氏が使ったのを日本のサッカー評論家が広めたもののようです

闇雲にただプレスをかけるのではなく、狙った方向に相手(相手のボールの行方)を誘導させてボールを奪い返して、そのまま攻めに転じます。

結果として相手ゴールの近くでボールを奪えるため、いわゆるショートカウンターの形になり、より早くゴールに向かえます。

ところで、サッカーに詳しい方なら前線からの激しいプレッシングと言えば『ゲーゲンプレス』という言葉が浮かぶかもしれません。

ストーミングはこのゲーゲンプレスによって引き起こされる状態と言えます。

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ゲーゲンプレスとは

ゲーゲンプレスとはドイツ人の監督であるユルゲン・クロップ氏の代名詞とも呼べる戦術で、ボールが奪われた瞬間に周囲の選手がボールホルダー(=ボールを持った選手)を囲んでボールを奪い再び攻撃に移るという方法です。

ゲーゲンプレスの説明用画像

gegenpressと書き、gegenはドイツ語で『~に対して』『抵抗』『カウンター』などの意味があります。

ネガティブトランジッション(=攻めから守りへの切り替えのこと)をできるだけ早く行うというのが特徴です。

近年のゲーゲンプレスは、プレスの方法を更に発展させ3つほどパターンがあります。

  1. スペースを潰す型:クロップ時代のドルトムントが採用
  2. パスの受け手を狙う型:ハインケス時代のバイエルンが採用
  3. インターセプトを狙う型:グアルディオラ時代のバルセロナが採用

他にもザルツブルグやディ・フランチェスコ監督時代のローマなどもストーミングに含まれると言う人もいます。

リバプールFCのストーミング戦術とメリット

では次にストーミングの代表的なチームであるクロップ監督率いるリバプールのプレス戦術を取り上げます。

まず前提として、サッカー経験者の多くは「中を切って外に相手を追い出すようにプレスをかける」と習ったことでしょう。

実際にこの記事を書くまでにJリーグを2試合と日本代表戦(対 中国戦)を見ましたが、全てFW(フォワード)やWG(ウイング)の選手は、ボールを持った相手選手をタッチライン側に追い込むようにプレスをかけていました。

外側(タッチラインの方)にプレスをかける様子

相手の左SBがボールを持っていたら守る側は右側(相手から見て左側)にプレスします

しかし、リバプールは違います

クロップ監督率いるリバプールはフェルミーノ、マネ、サラーという強力な3トップが有名ですが、この3人は相手のCB(センターバック)がボールを持つとサイドバックにボールが渡らないようコースを切り、中にパスを出させるようなポジションを取ります。

そして相手のボランチ(アンカー)など、真ん中のポジションの選手にパスされた瞬間に猛プレスをかけてボールを奪い、そのまま攻撃に転じます。

内側にパスを出させるようにプレスする様子

こうすることで、リバプールは味方の選手同士の距離が近い状態でボールを持つことができるため、ボールを奪った直後でも攻撃の選択肢を多く持つことができるというメリットがあるのです。

また、ボールを丁寧に回して崩そうとするポゼッションを好むチームに対しては、パスの出し所を限定することで効果的な攻撃をさせないようにすることや、守備に奔走して余計に体力を消耗するといったリスクを減らせるメリットもあります。

ストーミングのデメリット

ではストーミングは完璧な戦術かと言えばそうではなく、デメリットや上手く機能しない場合もあります。

例えば、相手が引いて守ってディフェンダーからのロングボールを多用するチームの場合はプレスがかからず機能しづらいというデメリットがあります。

また、絶えずプレスをかけるため選手は体力の消耗が激しくなります。ということは、技術は高くても年齢が高く運動量が比較的少ない選手が多いチームではストーミング戦術を採用しづらいというデメリットもあります。

クロップ監督も、最近ではゲーゲンプレスだけではなくポゼッションの戦術も組み込むようになってきています。

ストーミングは小学生のサッカーにも有利?

個人的な意見として、ストーミングは8人制サッカーの小学生サッカーにおいて、弱小チームでも勝率を上げやすい戦術なのではないかと思います。

もちろん、しっかりパスをつないで相手を崩すことができる選手が揃っているような強豪チームでは、よりその精度を高めたほうが良いでしょうが、サッカーを始めてそれほど経っていないような子供たちが多いチームには合っていると思います。

その理由は次の通りです:

  • もともと小さい子のサッカーはカオスな状態(いわゆる団子サッカー)になりやすいので、プレスの方向や方法を決めるだけでもボールを奪える確率は高まるし、無理に「広がれ」と言うよりも攻めの形が作りやすい。
  • キック力が弱くパスの精度も低い選手が比較的多い場合、フィールドを広く使ってパスを回すことが難しいので、選手間の距離が近いストーミングのほうが前にボールを運びやすい。

もっとも、指導者ごとに考えは違いますし勝利も大事ではありますが、まずは子供たちに「どんな選手になってもらいたいか」「そのために身に付けさせたい能力は何か」を考えた上で、それに合う戦術を採用することが大切です。

まとめ

ではおさらいとまとめです。

  • ストーミングとは前線からの激しいプレス(ゲーゲンプレス)によって相手を混乱させて素早く攻める戦術
  • メリット:相手ゴール近くで一斉にボールを奪うため攻撃に転じるのも早くなる
  • デメリット:ロングボールを多用するチームなどにはプレスがかかりづらい、選手はより多い運動量が求められ消耗しやすい

同じサッカーというスポーツをしていても、実はチームによっていろいろな戦い方があります。こういうことを知って注目してみるとサッカー観戦もより面白くなりますね。

また、ひょっとしたら「自分がサッカーを教えているチームには関係ない」と考える指導者がいるかもしれませんが、指導者が知識を増やせばそれだけ練習内容も工夫ができて選手の成長にも繋がりますね。

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